結婚式
漫画などで描かれる結婚式前日というのは、大体何かしらのドラマがあるものだが、実際のところは、そんなドラマ的な要素など微塵もなく、まるで世界が崩壊したかのように静かで、ゆったりとした時間だけが只々流れていた。あまりに暇だったので、「こんなことなら仕事に行っても大丈夫だったのではないか」と、妖怪・社畜小僧が定期的に私の耳元で囁いてきたが、それを手で振り払ったりしながら、寝るまでの時間を妻と二人でのんびりと過ごした。
昼頃、「本当に世界が終わったのではないか」と不安になり、近所のマツキヨに三本入りのL字カミソリを買いに行ったところ、いつもと変わらず普通に営業してたので、世界が終わってないことを確認することができ、深い安堵を覚えた。
結婚式当日は、5時半起きということで、最低でも7時間は寝ておきたかったので、その日の夜は、謎の男(福山雅治)が出ている「るろうに剣心」も観ずに、21時過ぎにベッドに入った。
我が家は寝るときに、妻が『深夜の馬鹿力』のバックナンバーを流すのだが、その日は、妻が「今日は、これをかけよう!」と、事前に流す放送を決めていたような口ぶりでiPodを再生した。そして聞こえてきたのは、1995年11月6日の、伊集院さんが結婚式を迎える前夜の放送だった。この放送を聞くまで、伊集院さんの誕生日と結婚記念日が同じことを完全に忘れていた。「結婚式の前夜に、結婚式前夜の放送を聞くなんてオツなものだな」などと思いながら、最終的に2時間以上後に眠りについた(早すぎて眠れないんだもん)。
5時半。
カムチャッカの若者がキリンの夢を見たり見てなかったりする頃、スマホのアラームが鳴り、目が覚めた。前の日に商店街で購入した白Tシャツに白靴下を履き、いつもより厚着して出かける。土曜の早朝だというのに、上りの駅のホームには、死んだ目をしたスーツ姿のサラリーマンが、現実と夢の狭間で揺れながら電車を待っていた。そのまま駅のホームまで揺れて落ちないことを祈りながら、私と妻は下りの電車に乗り込んだ。
6時50分。
式場に着くと、3カ月以上に渡って私たちのことを担当してくれた會澤さんが笑顔で私たちを出迎えてくれた。後で話を聞いたところ、會澤さんは4時起きだったらしい。ご苦労様です。
その後、すぐに新郎新婦の控室まで案内され、妻はそのままヘアメイクと着替えに入った。私もしばらくしたら、着替えをして、なすがままに化粧をされた。
ほどなくして、會澤さんが控室に祝電を持ってきてくれた。誰が送ってくれているのかは大体把握はしていたつもりだったが、地元の友人一同が送ってくれていたのは知らなかったので、驚きの嬉しさのハイブリッドの感情が湧きあがった。
このとき、會澤さんから、祝電について、名前の読み方だったり、読む順番の指定をどうするか、ということを聞かれたのだが、「えーと、すいません、この方は何とお読みすればいいでしょうか?」と、會澤さんから渡された祝電の一行目を見ると、『小島一慶です!ロン!』と書かれており、思わず苦笑いがこぼれた。
「あのですね、送って頂いた方は、小島一慶という名前ではないです」と、上に書かれたペンネームの方が送り手ということを伝えた。「元はTBSのアナウンサーで、テレ朝に移籍後に女性問題を起こして、そのままテレビから姿を消えてしまったので、若い人で知ってる人はなかなかいないと思うんですけど、この方、麻雀が趣味でしてね」といった説明は、もちろん一切せずに、小島一慶という漢字にルビを振った。おそらく、後にも先にも無い作業だと思う。
(ちなみに、司会の方が元・TBSの女子アナで、元々は伊集院リスナーだったので、それも相まって、読まれているときはクソ袋ような感じだったらしい)
そんなことをしているうちに、あれよあれよという間に時間が過ぎ、撮影部隊の3人(写真撮影、ビデオ撮影、エンドロール撮影)の方と顔を合わせ、10年後の新婦へのメッセージを撮ったり、チャペルでカメラ撮影などを行った。ちなみに、カメラ撮影は式の最中も絶えず行われていたため、新婦側の親族から、「あんたら、人形みたいやね」と言われたりもした。確かに、立って座ってお辞儀して写真を撮られて、ということを延々繰り返していたので、限りなくマリオネットに近かったと思われる。
で、新婦の両親も交えた最終リハーサルも終わり、いよいよ披露宴前の結婚式(人前式)本番。
チャペルの扉の前で少し緊張して開式を待ちながら、スタッフの人のカウントダウンに耳を傾けた。「3、2、1」で扉が開くと、目の前には、芸能報道陣ばりにスマホのカメラを構えた参列者の方々。「え、人前式ってこんなに堂々とカメラ向けていいもんだっけ?」といささか疑問を覚えつつも、一歩一歩、ゆっくりとバージンロードの上を歩いた。一番前の列で立ち止まり、振り返って皆の方に顔を向けた。その後、花嫁と父親が入場するのだが、この時点で妻の友人の何人かは、涙腺のパッキンが壊れたようで、フライング涙を浮かべていたらしい。保護者(父親)目線で見ていたとのこと。
その後、妻と二人で腕を組んで壇上に上がった。このとき、もう割と緊張は解けていたので、一人一人の顔をゆっくり眺めていたところ、友人の一人がいないことに気付いた。それとほぼ同じタイミングで、扉がガチャと開き、「すいません」と言った表情で小走りに席につく友人。「弱気なダスティン・ホフマンかよ」という突っ込みを心の中で入れた。
その後、プログラムは誓いの言葉へと進み、私と妻の共通の友人(リスナー友達)から、事前に自分たちで考えた誓いの言葉を読んでもらった。その誓いの言葉が以下である。
-------------------------------------------------------
(立会人)
(新郎名前)さん。
あなたは(新婦名前)さんを一生涯愛し、どんなときも守り抜き、幸せにすることを誓いますか?
また、新婦の大好物のかき氷を通年で一緒に食べに行くことを誓いますか?
(立会人)
(新婦名前)さん。
あなたは(新郎名前)さんを一生涯愛し、明るく笑顔溢れる家庭を築いていくことを誓いますか?
また、二人でTBSの深夜ラジオを聴き続けることを誓いますか?
(立会人)
こうして皆様の前で誓い、祝福を受けた幸せを忘れずに、生涯二人で力を合わせ温かな家庭を築き、記念日には美味しいものを食べに行くことを誓いますか?
-------------------------------------------------------
ちょいちょい笑いが起こり、リラックスした雰囲気に包まれたので良かった。
その後、プログラムは、指輪交換、誓いのキス、結婚証明書の記入、キャンドルリレー、新郎新婦退場、と、滞りなく進んだ。
その後、ガーデンに出て写真撮影からの披露宴が開始されたが、
内容については、結婚式ではお約束の、
・フラワーシャワーのときに、フラワーをオーバースローで投げられる
・ケーキカットで、新婦が新郎にケーキを食べさせてあげるときに、量が多すぎてこぼれる
・余興のカラオケで、新婦側の友人が歌っている最中に感極まって泣く
・カメラ撮影のときに「チューしろ、チューしろ!」と囃し立てられる
・新郎と新郎の父親が肩を組む
・新婦が、両親への手紙のときに、泣きそうになって言葉を詰まらす
などなど、結婚式ならではの数々のベタを見ることができた。
以前、マキタスポーツ氏がインタビューで、
「自分や自分の家族という作品に対しては、必要なことなら絶対にやります。そういうベタなことって大事だと思うんですよね。 物事を一歩引いてみるメタが行き過ぎて、地球の裏側のことを思いやってみたりするじゃないですか?ああいうのは嘘っぽいですから、もっと「身近な人を幸せにするべき」だと思います。 」と語っていた。
他にも誰かが、「結婚式ではとにかくベタなことを沢山やった方がいい」と言っていたが、それは本当にそうだと思った。身近な人を幸せにできるベタなら、どんどんやった方がいいのだろうな、と、今回の結婚式を通して、改めて考えさせられた気がする。
人生は、節目節目に自分のことを見つめ直す時期があると思う。例えば、就職活動。これは、あくまで自分自身に対して色々と考えるだけであるが、結婚式というのは、自分と周囲の人を見つめ直して、「自分はこれだけの人たちに支えられているんだな」と考えるための時期なのではないかな、という気がした。
映画版の「空飛ぶモンティ・パイソン」のラストに、それまでオムニバス形式で色んな物語に出演していたキャラクターたちが、パーティ会場に一堂に会するシーンがあるのだが、披露宴会場の階段の上から参列者の方々を見降ろしたときに、そのシーンが脳裏に甦ってきた。今回、友人グループの中にも、地元の学校の幼馴染みだったり、ラジオのリスナー友達だったり、ご近所で昔から仲良くしてもらっていた人など、それぞれ違うコミュニティがあり、その他にも、親戚、職場の先輩方など、様々なグループがあった。そのグループの間には何の関連性もないのに、こうやって一つの会場に集まって頂いたことに、言葉に出来ないほどの感謝の念を覚えた。
そんなこともあり、式中に、何回か感極まって泣きそうになったこともあった。泣かなかったけど。
と、書きたいことはまだまだあるのだけれど、とにかく、「結婚式はしないよりも しておいたほうがいいわ (by 俺高千里)」という気持ちを込めて、締めの挨拶とさせて頂きます。
来て下さった方、本当に本当にありがとうございました。
以下、結婚式中に流した曲リスト
進行内容 | CDタイトル | アーティスト名 | 曲名 | 備考欄 |
フラワーシャワー | colour me pop | Flipper's Guitar | Coffee-Milk Crazy/コーヒーミルク・クレイジー | |
ブーケトス | EARTH | SEKAI NO OWARI | インスタントラジオ | |
ブロッコリープルズ | ORANGE SUNSHINE | JUDY AND MARY | RADIO | |
新郎新婦入場1 | 少女革命ウテナ 麗人ニルヴァーナ来駕 〜ボクのアンドロギュヌス〜 | 光宗新吉 | 麗人来駕・序曲(SEGA SATURN opening inst) | 0.09秒でドアオープン |
乾杯 | TRIPLE H「HHH」 | トリプルH | ROCK OVER JAPAN | |
プロフィール紹介 | 交響組曲 「ドラゴンクエストV」 天空の花嫁 | すぎやまこういち | 王宮のトランペット | |
ケーキ入刀 | オリオンをなぞる | UNISON SQUARE GARDEN | オリオンをなぞる | 1.58秒から |
テーブルラウンド | 「少女革命ウテナ アドゥレセンス黙示録」オリジナル・サウンドトラック~アドゥレセンス・ラッシュ | 光宗信吉 他 | 輪舞-revolution~アドゥレセンス・ラッシュ(奥井雅美) | |
テーブルラウンド | 「少女革命ウテナ アドゥレセンス黙示録」オリジナル・サウンドトラック~アドゥレセンス・ラッシュ | 光宗信吉 他 | Akio円舞曲~ビデオな記憶 | |
テーブルラウンド | 「少女革命ウテナ アドゥレセンス黙示録」オリジナル・サウンドトラック~アドゥレセンス・ラッシュ | 光宗信吉 他 | フィアンセになりたい(シンフォニック・インストゥルメント) | |
メイン演出 | Flowerwall | 米津玄師 | Flowerwall | 3.36秒大サビから |
お色直し中座(新婦) | アンジェリーク~恋はPUSH&PUSH! | 葛生千夏 | THE GATEWAY | |
お色直し中座(新郎) | おもちゃやめぐり | ポアロ | Dreaming | |
新郎新婦入場2 | 少女革命ウテナ 麗人ニルヴァーナ来駕 〜ボクのアンドロギュヌス〜 | 光宗信吉 | 舞踏のエロス | |
お手紙 | 交響組曲 「ドラゴンクエストV」 天空の花嫁 | すぎやまこういち | 愛の旋律 | |
花束・記念品贈呈 | 少女革命ウテナ 絶対進化革命前夜 | Keita Egusa | 光さす庭 | |
新郎新婦退場 | アンジェリーク~恋はPUSH&PUSH! | 葛生千夏/進藤昌子 | 優しい愛の歌 Sweet Love Ballade (Vocal Version) |
進行内容 | CDタイトル | アーティスト名 | 曲名 | 備考欄 |
歓談 | LE MONDE FABULEUX DES YAMASUKI | YAMASUKI | AISERE I LOVE YOU | |
歓談 | LE MONDE FABULEUX DES YAMASUKI | YAMASUKI | YAMASUKI(CLUB MIX) | |
歓談 | so-ma-to | 変死隊 | so-ma-to(おもしろfaceMIX) | |
歓談 | DRAGON | 電気GROOVE | 虹 | |
歓談 | ARAKAWA魂 | ARAKAWA RAP BROTERS | ARAKAWA RAP BROTERSのテーマ〜O.V.E OVERFROW ERROR〜 | |
歓談 | CELESTIA | まい | モノクロの輪舞曲 | |
歓談 | hevenly | L'Arc〜en〜Ciel | C'est La Vie | |
歓談 | TRUE | L'Arc〜en〜Ciel | I Wish | |
歓談 | LIFE | 小沢健二 | 愛し愛されて生きるのさ | |
歓談 | LIFE | 小沢健二 | 僕らが旅に出る理由 | |
歓談 | さくら | サザンオールスターズ | 素敵な夢を叶えましょう | |
歓談 | 欲望図鑑 | 及川光博 | バラ色の人生 | |
歓談 | colour me pop | Flipper's Guitar | Exotic Lollipop (and other red roses)/奇妙なロリポップ | |
歓談 | ファイナルファンタジーVII リユニオントラックス | 植松伸夫 | ゴールドソーサー | |
歓談 | ファイナルファンタジーVII リユニオントラックス | 植松伸夫 | エアリスのテーマ (オーケストラ・アレンジヴァージョン) |