読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ロンドン旅行記 (二日目)

旅行

ロンドン二日目。   雨こそ降らないものの、この日も天気はどんよりとしていた。ロンドンで迎える初めての朝だったので、気持ちよくカラッと晴れていてほしかったが、そもそも晴れることの方が珍しいらしいので、そういうものだと割り切ることにした。

着替えて1階の朝食ブッフェに行くと、パン、スクランブルエッグ、ハム、ベーコン、ベイクドビーンズ、ソーセージ、マッシュルームソテー、ポテト、チーズ、ナッツ...などなど、いわゆる『イングリッシュブレックファスト』と呼ばれる料理が所狭しと並んでいた。はやる気持ちを抑えつつ、胃のキャパシティを超えない程度に料理を皿に盛り付けた。

f:id:FUJIKIKU:20160920155704j:plain

そんなに沢山とったつもりはなかったが、これがズシっとお腹に重くのしかかってきた。特に、ソーセージとベーコン、マッシュルームソテーが重く、「基本的に、油を使う料理はとことん脂っこいんだな」と、このとき悟った。

この日の午前中は、佐藤さんというツアコンの方がロンドンを案内してくれることになっていたので、早めに身支度を済ませてロビーへと向かった。ロビーでは、既に佐藤さんと思しき女性がソファに腰かけて私たちを待っていた。テーブルを挟んで佐藤さんと対峙し、「よろしくお願いします」と会釈すると、彼女は「今日はね、とても楽しみにしてたの」と、人なつっこい笑顔をこちらに向けてきた。箕輪さんから"佐藤"という名前だけは聞いていたが、それ以外の情報がゼロだったので、勝手に若い女性だと思い込んでいたが、実際は、年のころ50代のミセスだった。

佐藤さんはテーブルの上に地図を広げ、ロンドン市内の各エリアについて簡単に説明してくれた。
「いい?ロンドンは大きく東と西に分かれていて、東はシティ・オブ・ロンドンを中心とした金融街、西は商業や文化施設などが集中している、いわゆるウェスト・エンドと呼ばれる娯楽の中心地なの。だから、イギリス人は、東側で一生懸命働いてお金を蓄えて、西側で人生を謳歌するわけ」
語尾に「わけ」を多用する桃井かおりのような口調で話す佐藤さんの一言一言に、うんうんと頷きながら、実際にどこを見て回るのかを相談した。私たちが泊っているホテルは、ちょうどその東西の分かれ目であるトッテナム・コート・ロードのすぐ近くで、立地の面ではとても恵まれていたらしく、佐藤さんから「あなた達、運が良いわよ」と言われた。ちょいちょい芝居がかった台詞を挟んでくるため、まるで自分たちが映画の主人公にでもなった気分だった。

そんなこんなで、行く場所がある程度固まると、ホテルのすぐ近くにあるトッテナム・コート・ロード駅へと向かった。

観光スポットを回りながら、佐藤さんから地下鉄やバスの乗り方も合わせて教えてもらった。
日本では、公共交通機関を利用する際の乗車カードとして『SUICA』があるが、ロンドンでも『オイスターカード』という似たようなものがある。これを改札機の読み取り部にタッチすることで、自由に地下鉄やバスに乗ることができるのだ。 最初、「なんでオイスター(牡蠣)?」と思ったが、それを言ったら、日本も「なんでスイカ?」なので、名前についてはあまり深く考えないことにした。旅行会社から、10ポンドが入ったオイスターカードを事前にもらっていたので、そこに20ポンドを追加でチャージした。

トッテナム・コート・ロード駅からノーザンラインに乗って南下し、ウォータールー駅で降りると、目の前にはテムズ川が広がっていた。世界最大の観覧車ロンドン・アイを視界の端で捉えながら川沿いを5分ほど歩くと、前方にビッグ・ベンが見えてきた。ビッグ・ベンとは、国会議事堂に付属する時計台の通称である。ロンドンを象徴するランドマークということもあり、遠くから見ても大分迫力があった。  

f:id:FUJIKIKU:20160920175942j:plainf:id:FUJIKIKU:20160920180256j:plain

合間合間に記念写真を撮り、大きな音で鐘が10回鳴り響いたのを聴いてから、休む間もなくトラファルガー広場へと移動した。広場の中に、ナショナルギャラリーの入り口へと続く階段があった。

f:id:FUJIKIKU:20160920181132j:plain


館内は、ゴッホダ・ヴィンチをはじめとした世界的に有名な画家の作品が数多く展示されていた。日本の美術館と違い、写真撮影も特に禁止されておらず、とても自由で開放的な空間だった。美大の学生と思しき女性が1枚の絵の前に座り込み、スケッチブックを広げて精巧な模写をしている光景なども見られた。

佐藤さんは絵画にも精通しているらしく、有名画家の作品について、丁寧かつ係員に注意されるのではないかと心配になるほど大きな声で私たちに解説してくれた。特に、マイク・タイソンカイジと並んで『世界三大・耳ちぎり』として私の中でお馴染みのゴッホについては、その耳ちぎりエピソードを含めて、生い立ちを詳しく話してくれた。
そんな佐藤さんに、「一番好きな画家は誰ですか?」と聞いてみたところ、「うーん、そうねぇ、カラヴァッジオかしら」という返事が返ってきた。正直、私は絵画について明るくないため、『カラマチオ』と空耳して、「何かエロい単語かな?」ぐらいにしか思わなかったが、妻が「私の持ってるバッグに、カラヴァッジオの絵が使われてるのがありますよ」と反応し、意外なところに二人の共通点があることが分かった。

ナショナルギャラリーを出ると、そこからバスに乗った。ロンドン名物の赤い2階建てバスである。バスに乗るのはこれが初めてだったが、オイスターカードで「ピッ」とやるだけなので、乗るのは簡単だった。ただ、『何番のバスがどこに行くか』とかはよく分かってなかったので、地下鉄と比べてバスはまだハードルが高いな、と思った。

バッキンガム宮殿の近くのバス停で降りて、大きめの通りへと出た。佐藤さんが「タイミングが合えば騎兵隊交替式が見れるかも」と言っていたが、タイミング的にバッチリだったようで、宮殿の方から馬に乗った騎兵隊がやってくるのが見えた。  

f:id:FUJIKIKU:20160920185607j:plain

f:id:FUJIKIKU:20160920185615j:plain

f:id:FUJIKIKU:20160920185914j:plain


馬に跨って悠々と闊歩する姿はカッコよかった。あと、警察が馬に乗ってるのは、なんか良い。 で、騎兵隊交替式の後に、続けて衛兵交替式。こっちの方がロンドンっぽい感じがするのは、赤い制服と黒いモコモコの長帽子のためだろうか。ちなみに、秋になると、この赤い制服からグレーのロングコートになるらしいが、やはり夏期制服のが映える。

f:id:FUJIKIKU:20160920191537j:plain

f:id:FUJIKIKU:20160920191621j:plain


騎兵隊が通り過ぎた後の道路に散乱した馬糞を横目に、そのまま徒歩でバーリントン・アーケードへと向かった。バーリントン・アーケードとは、歴史と格式の高いお店が軒を連ねた、世界最古のアーケードである。 このアーケードには独自のルールが設けられており、走ったり、大声で話したり、口笛を吹いたり、光に当てたり、水をかけたり、12時過ぎに食べ物を与えたりするのはNGらしい。後半に若干の嘘も混じっているが、こういった独自ルールがあるあたり、格式の高さが伺える。ウィンドウ越しに店内を眺めるだけでも、一般庶民がとても気軽にショッピングできるようなところではない、ということが分かるほど高貴な雰囲気が漂っていた。実際、貴族御用達の店も多いらしい。
この後は、サンドウィッチ発祥の店や、山高帽発祥の店など、興味深い店を何件も案内してもらった。あっという間の3時間が過ぎると、バスでトッテナム・コート・ロードへと戻り、最後に、佐藤さんから「旅行だからって、夜逃げみたいにあっちこっち忙しく動き回るんじゃなくて、イギリスのテンポで、ゆっくりと楽しんでいって下さい」というお言葉を頂き、彼女とはそこでお別れした。
ホテルへと帰る道すがら、『Sainsbury's』というスーパーマーケットに立ち寄った。 ここで、イギリスではお馴染みの、マーマイトという癖のある調味料やら、紅茶などを買った。
会計のコーナーに行くと、通常のレジの他にセルフレジがあった。セルフレジはいまいち使い方が分からなかったので、通常のレジの方に並ぶと、そこにひときわ目立つ黒人の女性店員の姿があった。かなりふくよかな身体をしたその店員は、人目もはばからず気持ちよさそうに歌を歌っていた。日本だったら間違いなくアウトな行為だが、そこはユーモアの国イギリス。他のレジの店員もお客さんも、それを見てゲラゲラと笑っていた。
自分たちの番が回ってくると、運命の悪戯か、その店員のレジにあたった。彼女の前に立つと、「オー!ニホンジン!?」と片言の日本語で聞いてきたので、はい、と答えると、続けて「コンニチワー!」と笑顔で挨拶してきた。他の店でもそうだったが、外国人から日本語で挨拶されると妙に嬉しくなるもので、この店員との距離が急激に近くなったような気がした。

この店員、頭に巨大な安全ピンのアクセサリーを大量に付けていたのだが、それを見て妻が、「I have the same one.(私も同じやつ持ってます)」と言った。そういえば私も何か見覚えがあるな、という気がしていたのだが、妻が所持しているヴィヴィアン・ウエストウッド(イギリスのファッションブランド)のバッグにも、安全ピンをモチーフにしたやつがあったな、ということを思い出した。この妻の一言をきっかけに、妻と店員の距離がさらにグッと縮まり、そこから片言の英語と日本語を交えながらの会話が弾んだ。
彼女は「Kizitta」という名前で、このスーパーマーケットとは別に、服屋をやっているらしい (あと、後で調べたらユーチューバーだということが判明した)。Kizittaさんは、その服屋の住所と電話番号をレシートの裏に書き「よかったら連絡してね」と言って、私たちに渡してくれた。ありがとうと言ってガッツリ両手で握手をし、少し名残惜しい感じで店を後にすると、妻が「Kizittaさんとは、また会ってみたいね」と言った。
私の脳内に住んでいる落語家が、「いやぁ~、安全ピンってのは、人と人とを繋ぐモノでもあるんだなぁ~」と、人情噺のサゲっぽい台詞を言って、静かに袖へとはけていった。

この時点で昼の12時を回っていたが、私も妻も朝食がまだ消化しきれておらず、とても昼食をとれる状態ではなかったので、部屋に荷物を置いて少し休んだ後、歩いて大英博物館へと向かった。

「世界最大級の博物館に、徒歩5分で行けるなんて贅沢な話だなー」などと思いながら博物館の門をくぐると、そこには数十本の円柱が立ち並ぶギリシャ神殿風の建物が立っていた。「早く沙織お嬢様を救い出さねば...!」と思ったり思わなかったりしながら博物館の中に足を踏み入れると、大きな円柱がそびえるメインホールが目の前に広がった。

f:id:FUJIKIKU:20160920215846j:plainf:id:FUJIKIKU:20160920215902j:plain

f:id:FUJIKIKU:20160920220250j:plain

明るい白を基調とした壁と床によって、開けた空間がより広く感じた。
大英博物館は最終日にも行ったので、5日目のブログに写真も含めてその辺のことはまとめて書くことにする。

17時頃になると、さすがにお腹が空きはじめたので、ホテルのすぐ近くにあった『TAS』というレストランで、本場のフィッシュ&チップスを食べることにした。ただ、やはり「イギリス料理 = 美味しくない」という先入観があったため、実写版の『進撃の巨人』を観るとき並にハードルを下げてフライを食べたところ、これがとても美味しかった。外はカリカリ、中はふっくらで、タルタルソースとの相性も抜群だった。付け合せのポテトとサラダも普通に美味しかった。

f:id:FUJIKIKU:20160921011240j:plain


まぁ、店によって大きく当たり外れがあるとも聞くので、今回の店がたまたま当たりだったのかもしれないが、これで私のイギリス料理に対する偏見が少し取れたような気がした。

店を後にすると、今度は徒歩でオックスフォード・サーカスの方まで足を延ばし、しばらくウィンドウショッピングを楽しんだ。
再びホテルに戻り、部屋のベッドに倒れ込んだときには、足がパンパンになっているのが分かった。そして、パンパンマンへと変身した私の足が「本日の歩行可能距離が限界に達しました!」と戸田恵子ボイスで強く訴えかけてきたところで、本日の笑点お開き、とばかりにシャワーを浴びて、死んだように寝た(2度目)。

二日目終了。