ラジオ投稿記~伊集院光 深夜の馬鹿力編(4)~

 

『ラジオ投稿記~STVラジオ編~』
『ラジオ投稿記~コサキンDEワァオ!編~』
『ラジオ投稿記~爆笑問題カーボーイ(1)(2)(3)(4)~』
『ラジオ投稿記~伊集院光 深夜の馬鹿力(1)(2)(3)~』

からの続き。

今回から社会人編。

中学時代から何年にも渡って続けていた投稿をやめて、普通の聴くだけリスナー(という言い方でいいのか?)に戻ったときに一番感じたのは、放送を気楽に聴けるということだ。それまでは、フリートークの最中にも、どこか頭の片隅に「早くコーナーに行かないかな」という意識が常にあり、肩に少し力が入った状態で放送を聴いていた。コーナーに入るとそれがより顕著になり、誰か他の人のネタから派生してトークが膨らもうものなら、「ああ、読まれるネタの数が減る!」と、自分の心の狭さを痛感する悪い感情が芽生え、もともと闇属性だった人間がさらに暗黒面に落ちてしまう、といったことがしばしばあった。
そういった負の感情から解き放たれ、余計なことは一切考えず、ただただフリートークとコーナーが楽しめるようになったのは良かった。投稿は投稿で楽しいが、純粋に番組を楽しみたいのであれば、聴くだけリスナーに徹することを強くおススメする。

投稿をやめてから、番組では体験談系・報告系のコーナーが増えていった。この類のコーナーは、テーマによってネタを書ける人が限られてくるため、仮に自分がこの時期に投稿をしていたとしても、あまりネタを送れていなかったと思う。
当時、体験談系コーナーの中で特に人気だったのは『脳内商店街』というコーナーで、一時期は番組の後半1時間を全てこのコーナーに費やすほど盛り上がっていた。このコーナーは、ザックリ説明すると、オモシロ体験談を募集するコーナーである(超ザックリ)。体験談募集というと、若干お昼のラジオの匂いがするが、『俺ワールドから出られなくなった話』『お母さんオレオレって本当にオレだけど結果的に詐欺』『ふざけたつもりが、ポリス沙汰』『親が離婚した日』などなど、「そんなテーマに誰が送ってくるんだよ!」と突っ込みたくなるようなニッチなテーマが盛り沢山で、馬鹿力ならではのテイストが多分に含まれていた。募集するテーマは毎週3つあり、1番ネタが読まれたテーマが次週も生き残り、残りの2つは新たにテーマを立てるという流れだった。2018年現在の馬鹿力リスナーであれば、『勝ち抜きカルタ合戦』の体験談版だと思って頂ければ想像しやすいと思う。

自分としてもすごく好きなコーナーだったが、もう少し普通の(というか創作系の)ネタコーナーもやってほしいなぁ、という気持ちも少しあった。先にも述べたが、番組の大半がこのコーナーに費やされてしまうため、ガッツリ珍文を書きたい投稿者の人にとっては、いささか不満を感じるコーナー編成だったのではないだろうか。しかし、その反面で、毎週のように初投稿の人のお便りが数多く読まれ、新規リスナーの開拓が進んだという点では、番組の新陳代謝に一役買っていたコーナーだったように思う。

脳内商店街が終焉を迎えてからは、創作ネタ系のコーナーも増えていった。特に好きだったのは、毎回とある効果音をお題にして、その音から脳内に思い浮かぶ情景を川柳にするという『音5・7・5』のコーナーだ。これはリスナーの頭の中に絵を想像させるという点で、すごく深夜ラジオらしいコーナーだった。どの作品も秀逸なので、聴いたことのない方は、もし機会があったら聴いてほしい。

ネタコーナーが活発になってからは、自分の中にも投稿したい欲が少しずつ芽生えてきたが、仕事が忙しかったということもあって、実際に投稿するには至らなかった。自分の性格的に、暇な週のときだけ不定期に投稿するといったことはやりたくなかった。なんというか、「毎週ちゃんと投稿できる状況になるまでは出さない!」という変な拘りがあった。うーん、俺、めんどくさい。いじめ、かっこ悪い。

とまぁ、そんな感じで聴くだけリスナーとしての日々を送っていた。

そして月日は流れ、2008年9月15日。アメリカのリーマン・ブラザーズが経営破綻したことにより、世界的金融危機が発生した。俗にいう『リーマン・ショック』というやつである。当時、西原理恵子が何かの番組で「リーマン・ブラザーズってどこの兄弟?」と言っていたが、正直、私もその程度の知識しか無かったので、当時は対岸の火事とばかりに、自分とは無関係な出来事だと決め込んでいた。ところが、楽観的な私の考えをよそに、不況の波はジワリジワリとこちらに押し寄せ、当時働いていた現場との契約が切れて、私は本社に戻ることになった。そこからしばらくは待機社員として社内で勉強やら雑務をこなす日々が続いた。この頃は、社員の半分ぐらいが待機だったと思う。

会社の金を食いつぶしているという点で多少の負い目はあったものの、定時になったらサッと帰れるのは非常にありがたかった。ここで先ほどの話と繋がってくる。図らずも、毎週ちゃんと投稿できる状況ができたのである。悪い意味で。
そんなわけで「よし、いっちょ、投稿してみっか!」と決めたのだが、それと同時に、ある1つの想いが私の脳裏をよぎった。

「採用チャートを復活させたい」

採用チャートというのは、深夜の馬鹿力の第1回目放送からの投稿者のネタ採用数を集計してまとめている表のことである。昔は、"名もなきリスナー"ことつぼっくさんがチャートを管理しており、数ヶ月に1度ぐらいの頻度で更新されていたのだが、いつの日からか更新が止まり、チャートは完全に凍結してしまった ⇒ (http://www.kinet.or.jp/h_ijuin/chart/)

どうしてこのチャートを復活させたいと思ったかというと、昔、ミラッキさん(馬鹿力ではペンネーム大村彩子さん)も言っていたが、このチャートにラジオネームが載ると何か嬉しいのだ。別に誰かと競うとかいうわけではないのだが、投稿してる感が出るというか、自分もこの番組に参加している気がするというか、何か励みになるというか、まぁ色々である。そんな採用チャートを復活させれば、より投稿に対するモチベーションが高まるのではないかと思い、すぐに採用チャートをデータに落とし込む作業を始めた。今考えると、つぼっくさんに連絡して「集計を引き継ぎますので、データを頂けませんか?」と一言メールを入れれば済む話だったのだが、なぜ当時の自分がそうしなかったのは謎である。

で、最終的に、データに落とし込んで新たな採用チャートとしてアウトプットするまでに、2ヶ月以上の期間を要した。今考えると凄い熱量だったな、と思う(その熱量の1%でも仕事に向けていれば、もう少し偉くなっていたかもしれない)。とまぁ、それだけ頑張った甲斐あってか、最新回までの集計表をツイッター経由で公開したときは、多数の方から反応を頂いた。自分で言うのもなんだが、すごく意味のあることをしたと思っている。採用チャートを復活させたことで、世界線がかなり大きく変化したと信じたい(信じさせて)。
で、採用チャートを完成させた後は、準備は整いましたと言わんばかりに投稿を始めた。7年ほどブランクがあったので、感覚を取り戻すまでに時間がかかったが、自分なりに手ごたえのあるネタがいくつか書けた週(2010年10月04日)に、十面鬼というコーナーで採用を頂いた。ちなみに、読まれたネタは以下の二つである(いずれも酷めの下ネタだが)。

女子校にて。いじめっこの女子達に教科書類をトイレに全部捨てられた私。これにはさすがにキレて、半泣きになりながら主犯の女子につめよると、「そんなの知らないし、第一、あたしがやった証拠でもあるわけ?」としらを切ろうとする。いくら言っても「知らない」の一点張りで、全く認めようとしない。泣き寝入ろうかと半ばあきらめかけていたとき、突然、男性体育教師が現れ、正義感にあふれた頼りがいのある笑みを浮かべながら、「よし!先生が女子トイレを盗撮したカメラで確認してみればわかるな!」と言ったときの私といじめっこの顔。

ゲソが全て少女時代の足になっている巨大イカに絞め殺される悪魔に一晩中うなされ、汗びっしょりで目がさめたあと、自分のおちんちんがぎんぎんになっていたときの俺の顔。

最初、伊集院さんの口から「ペンネーム、藤井菊一郎」という言葉が発せられた直後、少し間があって「この人、昔、ハガキとか凄いくれてた人だと思うんですよ。なんか、AMラジオ長くやっててよかったな、ってこういう感じなんだよね。久々に伊集院でも聴いてみるか、みたいな」という予想外の反応が返ってきた。正直、学生の頃はたいして読まれてなかったので、名前を覚えてもらっていただけでも十分嬉しかったが、その日、2つ目のネタが採用されたときに「あー、今日この人すごいな。この人がまた書いてきてくれるの嬉しいね、こんだけ面白いと」と、思わずうれションがドクドク出てしまうようなお褒めの言葉を頂いた。決して大袈裟ではなく、このときは天にも昇る気持ちだった。

当時、馬鹿力ではお馴染みの投稿者の一人であるまげまげさんが、このときの放送を受けて、「藤井菊一郎さんの拾われ方は実に幸せだと思います」と自身のブログで綴られていた。自分としても本当にその通りだと思う。リスナーとの距離感が近い番組が多い中、この番組は適度にリスナーとの距離を保っており、べったりの関係には決してならない。そういう番組なだけに、こんな拾われ方はまず無いのである。
今回の件を例えるなら、投稿者は、いつも素っ気無い態度のイジュ子ちゃんを振り向かせようと必死にLINEを送るも、基本は常に既読スルー。たまに返信が返ってきても「どうも」の一言のみ。そんな中で、今回は「すっごく嬉しい!またメッセージ送ってね!待ってるよ!(はぁと)」ぐらいの返信を貰ったレベルのレアケースだと言えるだろう。

多分、この採用が無かったら投稿は続けていなかったと思う。それぐらい嬉しかった。
で、これを機に、社会人になって本格的に投稿を再開することになるのだが、それはまた次回。

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