爆笑問題の太田さんと世間との溝について

最近、テレビやネットを観ていて爆笑問題の太田さんと世間との溝を意識することが増えてきたので、それについて自分が感じていることを少し書きたいと思う。ここでいう世間というのは、テレビの視聴者、特に爆笑問題のファンではない一般視聴者のことを指す。
記憶に新しいのは、TBSの選挙特番でMCを務めた太田さんが政治家に不遜な態度や失礼な発言をしたことによる炎上だが、これに関しては政治というある種のノイズ的な要素を含んでいることに加えて、普段バラエティを観ている視聴者層とまた違ったところからの火種が多いかと思うので、自分が感じている世間の溝とは少しピントがずれる。あくまで太田さんが純粋なバラエティ番組に出ているときに感じることである。

 

最初に、太田さんのテレビでのキャラクターについて少し振り返っていきたいと思う。以前の記事でも書いたように、私が爆笑問題を知ったのはボキャブラ天国だった。その頃の太田さんのイメージは、周りの芸人がワイワイ騒いでるときに、ボソッと一言芯を食ったワードを放って笑いをかっさらう、いわゆる天才型の芸人だった。これはあくまで私が感じていた印象だが、当時のお笑いファンのイメージもこれに近かったと思う。で、そのイメージは、爆笑問題ボキャブラを卒業してからもしばらく続く。爆笑問題自身の冠番組はもちろんのこと、日テレの番組対抗クイズ特番のような、タレントが大集合するタイプの番組にゲストとして出た際にも、確実に笑いを取ってスタジオを盛り上げていた。一言一言のボケに本当にキレがあった。「とりあえず、あいつにボールを投げれば必ず爆笑を取る」といった信頼が周囲からも感じられたし、太田さんが発言する際は、周りが聞き耳を立てるように一瞬「しん」と静まり返る空気すらあった。


自分の肌感覚では、『笑っていいとも!』の中期頃までこのイメージはあった。いいともは、番組が生放送ということで危うい雰囲気になることはあったものの、太田さんが植草教授(当時、女子高生のスカートの中を手鏡で覗こうとして逮捕された人)のモノマネをしようとして相方の田中さんやおすピーの二人から笑いながら必死で止められているときも、なんだかんだで周囲は面白がって盛り上がっていたし、ネットの声(主に2ch)も「太田もっとやれ!」という歓迎ムードが漂っていたように思う。ただ、「生放送で予定調和なことをやらない人」という危険なイメージがついたのもこの頃だった。当時はそれが良い方向に転がっていた。

 

生放送で思い出すのは、TBSのオールスター感謝際だ。90年代後期の出演では、太田さんが赤坂ミニマラソンで『デヴィ夫人』のゼッケンをつけて会場を沸かせていた。これにはテレビの前で観ていた私も腹を抱えて笑っていた記憶がある。ちなみに蛇足だが、この記憶を引っ張り出すと、必ずセットで瀬戸カトリーヌが号泣してた場面が思い浮かぶ。閑話休題。で、その2年後の感謝祭。同じく赤坂ミニマラソンに出場した太田さんが、あろうことか、特別ゲストとして参加していた競歩の選手に体当たりして走行を何度も妨害したのである。当時、これを私は実家で親父と観ていたのだが、爆笑問題ファンの親父ですら「何やってんだ」と少し語気を強めにして怒っていた。私もさすがにこれは弁護できなかった。この件に関しては、もう覚えてる人も少ないだろうが、当時はそれなりに話題になり、ネット上でも批判されていた。この頃から、太田さんのテレビでの位置付けは、センスの人から『ヤバい人』へと変わっていったように思う。

 

今もおそらく世間では『ヤバい人』、または生放送で何をしでかすかわからない『危険な人』『空気の読めない人』というイメージが太田さんにはつきまとっているのではないだろうか。まぁ実際そうなのだけど。
これはあくまで爆笑問題のラジオを長年聴いている私の一意見だが、太田さんの性格自体は昔からさほど変わっていないと思っている。勿論その時その時の本人の感情の波はあれど、「自分の言いたいことを言う」という我を貫く姿勢は昔から一貫している。ただ、最近は言いたいことを言う範囲が視聴者の許容範囲を逸脱し始めてるように感じる。一例を挙げると、フワちゃんに対して「磯山!」と言うノリだ。これは『高田文夫ラジオビバリー昼ズ』で、磯山さやかのするフワちゃんのモノマネが似てるということを受けてのノリだが、勿論これは大半の視聴者に伝わらない。というか、当初はフワちゃんすら知らなかったらしい。ラジオリスナー的には、「何やってんだよw」といった感じで笑える部分もあるだろうが、正直これはちょっと悪ノリが過ぎるかなとも思う。

 

最近の太田さんは、「自分のホーム以外の場所で悪ノリしてスベる」場面がよく見受けられる。数年前の27時間テレビで、ピエロの格好をして騒いだ挙句、吉本芸人から村八分にされて滑り倒した場面は今も思い出すだけでツラい。しかし、逆にいうと、自分のホーム、例えば自身のラジオ番組『爆笑問題カーボーイ』や、仲の良い芸人仲間に囲まれた『検索ちゃん』などではそういう場面は一切見られない。仮に太田さんが危険な発言をしても誰かしら突っ込んでくれる環境だからだ。
前述の『笑っていいとも!』もそうだが、あの場所も周りが太田さんに対して理解があり、周りが突っ込んでくれる環境だった。それに加え、タモリさんやおすピーなど年長者がいたため、太田さんも多少は自制していた部分があったと思う。今は逆に、番組のスタッフなども含めて太田さんが最年長になることも多いと思うので、止める人が周りにおらず発言が視聴者の許容範囲を超えてしまうのではないだろうか。

 

と、太田さんに対して批判とも捉えかねない意見も含めて色々と述べてきたが、なんだかんだ言っても私は太田さんが好きだ。好きが故に、今回の選挙特番の炎上などで「太田もうテレビに出るな」といった意見がツイッター上に溢れかえってるのを見るとすごく悲しくなる。ただ、その一方で「太田さんを不快に思う人もいるだろうな」と批判的な意見を発する人に対して一定の理解できる部分もあるので、こちらとしても心の折り合いをつけるのがタイヘン難しい。思わず「もー!なんでこんな面倒なヤツのこと好きになっちゃったのよ!」と恋する乙女のようなキモチになる。
で、とどのつまり、太田さんを止めてくれる人間が周りにいないとアカンという結論に帰着する。選挙特番について、太田さんがラジオで「田中が横にいても何も変わってなかった」と言っていたが、視聴者的には田中さんが横にいるのといないとでは安心感が天と地ほど違う。最終的に同じ道を辿って炎上していたにせよ、田中さんがいたらそれでも少しは見方は変わっていたと思う。
と、こんなことを言ってまた田中さんの評価が上がると、太田さんがまたラジオで文句を垂れるのだけれど、それを聴くのも楽しみだったりするので、もうリスナー的にも何を求めてるのかよく分からない。まぁ何にもしても、田中さんはずっと太田さんの横にいてください。