日曜の夜までにラブレターを送る生活

この1年で、ラブレターを送ることが生活の一部になった。と書くと、かなりヤバいやつに聞こえるが、ラジオ投稿の話である。
ラブレターというのは、『佐久間宣行のオールナイトニッポン0』内の『企画書は甘いラブレター』というコーナーのことだ。詳しくは前回のエントリーを見てほしい。
今回は、毎週毎週このコーナーに投稿していく中で、いろいろと思うところがあったので、その辺についてツラツラと書き連ねていきたいと思う。

まず最初に、今自分がどういう感じでラジオに投稿しているかを少し書いておく。

学生時代は時間が無尽蔵にあったので、暇さえさればボーっとネタを考えたり、深い時間帯の番組をリアタイしながらリアクションメールを送ったりしていた。
今は社会人で所帯も持ってる身ということもあり、なかなかそういう訳にもいかないため、ネタを書く日はあらかじめ決めている。「ネタを書く」というより、「ネタを清書する」といった方が適切だろうか。基本的に、いつも頭の片隅でネタの種みたいなものを考えており、使えそうな単語や言い回し、設定などを思いついたら逐一スマホにメモっているのだが、それらをつなぎ合わせてちゃんとした文章に落とし込むのがネタを書く作業になる。この作業は週末の夜にしている。なぜ週末かというと、日曜の夜までにはメールを出しておきたいからだ。
ラジオ投稿者界隈でよく耳にする「自分ルール」の1つに、自分で勝手にメールの締め切りを決めるというものがあるのだが、私もラブレターのコーナーに関しては、「日曜までには送る」と締切日を設けている。放送が水曜の深夜なので、日曜というとその3日前だ。週の終わり(始まり?)で何となく区切りが良いのと、月曜以降にネタを出しても採用されることが滅多にないということから、日曜を基準に考えている。実際、過去の自分の採用ネタを見返したときに、採用されるネタの7割以上が1〜2通目に送ったネタで、後に出せば出すほど採用率が低いということが数字に表れている。なので、よほど良いネタが思いつかない限り、月曜以降にラブレターのネタは送らないことにしている(他のコーナーには送るけど)。あと、大喜利ではないが、同じモチーフであっても先に出した方がネタの印象が強い気がするので、できるだけ早めに送るようにしている。これは、このコーナーの「ネタがかぶりやすい」という性質から考えても、その方が良いと勝手に思っている。

もう1つ自分ルールとして、最低でも6つはネタを出すようにしている。6という数字にそこまで深い意味はない。6つ出して2つ採用されたことが過去に何度かあるということと、どんなに忙しくても6つだったら何とか考えつくということで、何となくこの数字に落ち着いた。で、6つネタを考えていく中で、1つか2つは「採用されるとしたらこれだな」という比較的自信のあるネタが出てくるのだが、番組で採用されるネタの大半はそこから選ばれるので、自分と作家の感性はズレていないらしい。もし6つ書いても自信のあるネタが出なかった場合、7つ目以降をどうにか捻り出すようにしているが、そういう場合は、たいてい読まれない(ラジオ投稿者あるある)。
昔は持論として、「ネタは量ではなく質」と思っているふしがあった。基本的に今も考えは変わっていないのだが、いろんな人の意見を聞くうちに少し改めた部分もあって、質を出すにも量が必要だと思うようになった。今は、1つのテーマに対して四方八方とにかくいろんなパターンを探り、そこに金脈がありそうな場合は深く掘り進める、といったネタの作り方になった。逆に、「これ以上掘り進めても何も出ない」と悟った場合は、無理に出さないようにしている。以前、キングオブコントで、サルゴリラが優勝した翌週に、「魚で例える」系のネタを考えたのだが、十人並のネタしか書けなかったので、あえて送らなかった。自分の中の評価基準がブレるので、送っても読まれそうにないネタは、あらかじめ自分の中ではじいている。そういう意味では、6つネタを出すとはいってるものの、10以上は考えてる。

パーソナリティーのメール読み脳内再生シミュレーション(ラジオ投稿記参照)は、馬鹿力のときから変わらず続けている。ただ、伊集院さんと佐久間さんでは、読んでもらうメールに対して意識するポイントが少し違う。伊集院さんの場合、番組の枠に収まる範囲ネタであれば、どんな頭のおかしい文章でも淀みなく、かつ面白さが膨らむような表現で読んでくれる。かたや佐久間さんは、ラジオ5年目のパーソナリティーとはいえ、伊集院さんと違い、もともと喋りを本業としている人ではないため、正直そこまでの表現力はないと思っている。なので、読み手の技量によってオモシロさが大きく変動する類のネタは基本送らないようにしている。例えば、替え歌とか。ただ、「オレに何を読ませてんだよ!」的なオモシロにつながる場合がごく稀にあるので、出すとなった場合は佐久間さんが絶対に読むのに向いてないネタを出すことにしている。ばりばり江戸弁の落語とか。
あと、私の脳内佐久間は割と噛むので(実際、噛むのだけど)、可能な限り読みやすい文章を(気持ち)心がけている。以前、以下のネタを書いて脳内再生させたとき、

『「敬老の日は、お年寄りを敬わなければならない。〇か×か」「正解は×。敬老の日以外も敬うべきである」という、運転免許の筆記試験みたいな問題』

第一感として、「あー、『敬う』の部分、噛みそうだな」と思った。かといって良い感じに置き換えられる単語も思いつかなかったので変えずに出したのだが、案の定、放送で読まれたときにしっかり噛んでいた。このとき、図らずも自分の脳内佐久間の精度が高いことが証明された。この脳内佐久間が、ネタを読み終えた後にどういうリアクションをするかまで見えたら、自分の中でOKということで出すことにしている。

と、こんな感じの投稿スタイルで1年以上毎週送り続けて、なんとなくコーナーの温度感は掴めてきたものの、いまだに連続でボツを食らうことも珍しくない。どういうネタが採用されるのか分かってきても、それが毎週コンスタントに書けるかどうかはまた別の話なのだ。

で、この辺から「スポンサーとのタイアップコーナーに送るのって難しいな」という話。

前回も軽く書いたが、そもそもこのコーナーに出したところで絶対に読まれないネタというのが、かなりあると思っている。まず、当然ながら犯罪ネタや政治ネタ、悪いスキャンダル系のネタ、そして、下ネタ。この辺までは想像しやすいと思う。あと、スポンサーが明治ということで、他社のお菓子名などはおそらくNGだ。「じゃあ明治のお菓子なら良いのか」というと、あまりにスポンサーに迎合しすぎているということで、それはそれでよろしくない気がする(テーマが明治のお菓子にまつわるものであれば話は別だが)。これに関していうと、以前、ネタ中に「ポッキーゲーム」という単語をどうしても使いたかったのだが、さすがに無理かなと思ってあきらめたことがある。このとき代替案として、明治のフランを使うという手も考えた。ただ、フランだと「意味」が出てしまうので結局ダメという結論に帰着した。こういったことに注意する必要があるのだ。
また、これと同じようなパターンで、具体的な企業名や商品名も、一部の例外を除いてあまり使わない方が無難だと思われる。

と、ここまで書いて1つ思ったのだが、これらの注意事項って案外どの番組にも適用されるのではないだろうか。というより、ネタの中に商品名をバンバン出してる『深夜の馬鹿力』の方が特殊なのかもしれない。他の番組を見渡したときに、ネタ中に商品名を出してる番組ってそんな無いし。ああでも『雪見だいふくを一口ちょうだいって言ってくるやつ』ぐらいのネタだったら他の番組でもあるかな?まぁでも、スポンサーが多めの番組であれば、それほど多くはないと思う。
「ネタに登場させるワードは、できるだけ具体的にした方が良い」と深夜ラジオ投稿の教科書で教わってきたので、これらのことは教えに反するのだが、そういうルールなのだから仕方ない。

商品名を削ったパターンを1つ紹介する。以前、テーマが「受験」のときに、以下のネタで採用された。

観客が誰もいない真っ暗な会場で、リングの上に立っている自分は、赤コーナーの選手とボクシングの試合をしていた。長時間にわたる激戦の末、ついに相手からダウンを奪うと、相手はどこか嬉しそうに、「強くなったな」と言って笑う。と、そこで目が覚めた。そして、ふと机の上に目をやると、そこにはボロボロになった赤本が。そんな、受験当日の朝。

このネタ、最初は締めを「そんなカロリーメイトのCM」とするつもりだった。もしかしたらそっちでも採用されたかもしれないが、「ボロボロになった赤本が」の部分がこのネタで一番主張したい部分だったので、無理に入れる必要もないかなと思い、出す直前に変えた。ちなみに、放送では佐久間さんが「これ、そのままカロリーメイトのCMでもいけるよね」と言っていたが、佐久間さんが補足して話すぶんには問題ないのだ。ここに大きな違いがあると思っている。

こういう言葉の制約の話になると、『キッドアイラック!』という漫画を自然と思い出す。ヤンキーが何かをひたむきに頑張って改心する系の漫画は世に沢山あるが、その題材が「大喜利」という非常に珍しい漫画だ。
漫画という性質上、大喜利の回答として出てくる単語は一般名詞のみで、特定の芸能人を指すものや商品名などはもちろん一切出てこない。しかし、それでも大喜利の回答は面白く描かれている。「ああ、別に具体的な単語を使わなくても面白くできるんだ」と、最初に読んだときいたく感動したのを覚えている。ちなみに、作者の長田悠幸氏も大喜利を趣味としており、タピ岡ススルという名前で大喜利の舞台に上がっていたりする。お笑いに精通しているだけに、より回答を考えるのに頭を悩ませただろうな、と心中を察する。
ラブレターのコーナーでは一般名詞に加えて、芸能人名やドラマや映画、エンタメに関する作品のワードであれば使っていいことになっている(と思う)ので、この漫画のケースに比べたらだいぶ自由度が高いといえるだろう。ちなみに、このコーナーはX(旧Twitter)とも連動しており、ベストメールとして選ばれたネタを含めて、2つのネタが番組公式Xにアップされる。その際、具体的な人名などは伏せられる。つまり、「具体的な名前を伏せられてもネタのオモシロさは損なわれず、SNSにアップしても問題ないリテラシーのネタ」を基準に選んでいると思われる。

あと、コーナーはもとよりメール全般でいえるのが、「ネガティブな言葉や話題は、できるだけ避けた方がいい」ということだ。これは番組を長く聴いてる中で感じたことだ。以前、放送をリアタイしていたとき、リアクションメールで、『死亡フラグ』という単語を入れたメールを送ったことがある。メールの送信ボタンを押した直後、「あー『死亡』っていう枕詞、余計だったな」とすぐに後悔したのだが、メール自体は採用された。しかし、放送では『死亡』の二文字が削られて読まれた。今やYoutubeでもこの類の言葉は伏字になっているが、もうコンプラ的にもあまり放送には載せない方がいい空気になっているのだろう。この一件があって以降、よりこの辺の単語には気をつけるようになった。
また、直接的な単語でなくとも、特定の人物に対するよくないディスりも書かないようにしている。「誰も傷つけない笑い」が皮肉めいて使われる昨今だが、これ地味に大事なことだと思っていて、そのネタによって自分は傷つかないまでも、『「このネタで傷つく人いるだろうな」と思ってしまう事象』が発生してしまうことは結構あると思っている。これがネタを聞くうえで邪魔な感情になるのだ。なので、できるだけ夾雑物の入らないポジティブなネタを書くよう心がけている。たとえネガティブ方面に行くにしても、「滑稽」的な表現にとどめている。
以前、『座王』で千原ジュニアロングコートダディ堂前に対して、「堂前の他の芸人と違うところって、ネガティブなことの方が笑い取りやすいけど意外とポジティブなことで笑い取ってる、そこが稀有な存在」と評していた。芸人でもない自分がいうのもおこがましいが、確かにネガティブなことは笑いが取りやすいし書きやすい。実際、自分が馬鹿力に投稿してた頃は、ネガティブなネタが圧倒的に多かった。というより、ほぼそれしか書いてなかった気がする。そういう意味で、佐久間さんの番組に投稿している今は、今までとまったく違う脳の部分を使ってネタを考えている。

ここまでいろいろと書いてきて、「これだけいろんな縛りがあると、好きにネタが書けなくて窮屈なのでは?」といったふうに思われるかもしれないが、決してそんなことはなく、むしろこの制約の中でどれだけ自由な発想でネタを考えられるか、というのが腕の見せ所になってくる。昔、漫画『美味しんぼ』で、東西新聞社の主催で国際的な晩餐会を開くという回があり、宗教上の理由で食べることのできない食材が数多くあるいろんな国の人たちが一堂に会する中で、工夫を凝らして全員を満足させるフルコースを作るという話があったのだが、気持ちとしてはそれに近いかもしれない。

令和になり、時代に合わせて少しずつラジオ番組も変化していっているのを肌で感じている。ナイナイANNは例の一件を境に下ネタがほぼ封印されたし、コサキンはしばらく前からゲイネタをやらなくなった。馬鹿力は相変わらずぶっ飛んだネタが多いが、それでも「ブス」みたいな直接的ワードはもう大分減ってきている。これらは極端な例だが、こういった変化に気付かずに、いつまでも自分の価値観をアップデートしないままでいると、時代に取り残されて、ピントのずれたネタしか送れない人になってしまうのだろうな、と思う。
「昔ながらの味を守るラーメン屋といいながら、実は客に気付かれないように少しずつ味を変えてる」みたいなセリフを、何かのグルメ漫画で読んだことがある。昔ながらのやり方をただただ続けるだけで、変化していかないのはダメだという話だ。
自分は、味が変わったことにいちいち気付くめんどくさい常連客であり続けたいな、とめんどくさいことを思いながら、今日もネタを考える。